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食事摂取基準2020になって追加変更される点
先日、食事摂取基準2020年度版について、作成のワーキンググループに参加している方から直接話を伺う機会に恵まれました。
今回はそこで聞いた、変更点や追加点、どうして変更があったのかなどをまとめて書いていきます。
※文中、聴いた話と、僕の思っていることで、ですます調・である調が混在しているのでご了承ください。
※2019年12月10日 誤字修正しました。
食事摂取基準とは一体何か?
変更点の話の前に、そもそも食事摂取基準値とは何でしょうか?
しっかりと定義されたものはないのですが、基本的には
何をどれだけ食べれば良いかを示したガイドラインのような説明になると思います。
食事摂取基準の目的・目標としては
健康寿命の延伸、または健康の保持増進、生活習慣病の予防となります。
昔は食事摂取基準というものはなく、栄養所要量というものでした。
栄養所要量の目的としては栄養素の不足・欠乏を防止するというものでした。
これは食べ物に困る時期(戦後)を経由しているという時期的なことも関連しています。
一方、食事摂取基準の目的としては
引き続き不足や欠乏の予防(カルシウムなどはまだ不足傾向)も踏まえつつ、過剰摂取や生活習慣病予防について予防する旨が追加になっています。
生活習慣病は偏った食事などが原因で起こりやすく
過剰摂取についてはサプリメントの普及によって起こりやすくなったという時代的な背景があります。
食事摂取基準2020年版 改訂ポイント
ここからは食事摂取基準2020年度版で変更になった点や改訂された部分について書いていきます。
高齢者のフレイル対策
フレイルとは直訳すると虚弱という意味になりますが、虚弱という言葉のニュアンスがあまりよくないのでフレイルという言い方に(食事摂取基準内では)統一されています。
高齢者は消化吸収機能の衰えや運動量自体が落ちることから、食事量の減少、それによるフレイルになりやすくなっています。
フレイルは病気というわけではないけれど、病気などになりやすい・病気になってしまった際に重症化しやすい状態を表すものです。
フレイルを予防し、健康的な状態に押し上げようというのが今回の食事摂取基準での大きなポイントになっています。
このため、高齢者についての基準記載が変わってきています。
今までは年齢ごとに推定平均必要量が定められている場合に、「70歳~」と、高齢者についての枠は非常に大きいものでした。
これが今回の改定では
50~64歳
65~74歳
75歳以上
と細かめに区切られるようになっています。
そして74歳までに比べ、75歳以降は数字が低めに設定されています。
※ちなみに従来の70歳以降を一括りにするやり方はアメリカに準拠したものでした。
ただし、こういった数字はあくまで目安に過ぎず、「昨日まで74歳で、今日から75歳だから食事量を減らしましょう」なんて対応は好ましくなく、特に高齢の方についてはオーダーメイドの対応が必要になるだろうという話がありました。
結局基準や指標として数字は必要であるものの。個人差も広がってきているので、使い分けが必要だということになります。
具体的にフレイル対策としてどのような数字が示されているか
では、フレイル対策として、数字にはどのような変化が出ているのでしょうか?
・たんぱく質の目標量が増えている
・BMIが高めに設定されている
この2つが大きなポイントです。
たんぱく質の目標量が増えている
たんぱく質の不足は筋肉の減少などにつながるので、運動機能の維持という面でも重要です。
そして、消化吸収機能が落ちると、肉や魚というたんぱく源の摂取が落ちてくるという課題にも目を向けたものになっています。
ちなみにたんぱく質の目標量が増えましたが、実は推奨量などは変わっていません。
このため、集団給食の現場などでは基本的に大きな数字の変化はなかったりします。
あくまで今までより意識して摂取することが望ましいというニュアンスです。
たんぱくしつについて、なぜ目標量のみの変更になっているのかというと、日本では高齢者の食事データが少なく、科学的根拠が不十分であるためです。
こういった背景からも示されている数字を参考にするよりも個人個人の体重などを見ての対応が望まれています。
BMIは高めに設定されている
BMIの基準として18歳~49歳のものが一般的に使用されています。
この時の基準となるBMIは18.5~24.9であり、それ以下を痩せすぎ、それ以上を肥満と評価しています。
今回の改定で65歳~74歳と75歳以上は基準共通で
BMI21.5~24.9としています。
「痩せ」と判断される基準が厳しくなりました。
これはフレイル予防のためにBMIを下げ過ぎないことの重要性が考慮されての変更となっています。
BMIは成人の指標
BMIの話が出たので、BMIの基準が18歳以上の理由についても書いていきます。
BMIの基準で考えると生まれてすぐの赤ちゃん(平均身長50㎝、体重3000g)はBMI12程度になってしまいます。
ある程度の身長と体重のバランスに成長してからでないとBMIで計算される数字が全く参考にならないので、18歳以上に使用することになっています。
それまでの年齢については成長曲線に当てはめて考えていきます。
成長曲線についてはインターネットで検索すると曲線が出てくるので、子どもに関連する仕事をされている方などは一度目を通しておくことをおススメします。
成長曲線から本人の成長度合いが逸れていたとしても、成長期を迎える時期などは個人差も大きいので、あまり神経質にならない方が良いことを付け加えておきます。
食塩(ナトリウム)の目標量引き下げ
生活習慣病予防の観点から食塩の目標量が更に引き下げられます。
新たな目標量は今までよりも1日当たり0.5g少なくなり
男性7.5g未満
女性6.5g未満
となっています。
食塩の目標量については改訂のたびに少なくなっています。
2005年版 男性10.0g未満 女性8.0g未満
2010年版 男性9.0g未満 女性7.5g未満
2015年版 男性8.0g未満 女性7.0g未満
2020年版 男性7.5g未満 女性6.5g未満
※ちなみにWHO(世界保健機構)では1日5.0g未満を推奨
ただし、食事摂取基準作成グループとしても、日本人の食生活(和食中心の生活)で1日5gのナトリウム摂取量を下回るというのは実質不可能に近いと考えているそうです。
このため、目標量の設定には明確なルールが設けられていて
国民健康・栄養調査における摂取の中央値とWHOの定める5.0gの中間地を使用する。
つまり、食塩の目標値が下がったということは、実際の調査において食塩の摂取量が減少してきていることが示された結果ということができます。
病気の重症化防止の数字を記載
すでに病気を発症している人について専用の数値を設定、今回から健康な人用の数字と2種類用意されている項目が出てきている。
例として、高血圧および慢性腎臓病の方に対しては、重症化予防のための数字として食塩相当量は1日当たり6.0gと設定された。
これは病気治療のためのガイドラインの数字とも整合性を取ったものとなっている。
従来の食事摂取基準での数字は病気のガイドラインと異なる数字を示しているものもあり、混乱を招くことがあった、それを踏まえての変更でもある。
。
50歳以上のたんぱく質量の目標量の下限値を男女とも引き上げ
これは上記フレイル対策に準じたものになっています。
ビタミンDの目標量を1歳以上の男女各年齢層で引き揚げ
ビタミンDについての変更は今回の大きな変更点のひとつとなっています。
食事摂取基準2015年版 18歳以上 1日当たり5.5㎍
食事摂取基準2020年版 18歳以上 1日当たり8.5㎍
特に冬場は紫外線の量が少ないことから、日中の多くの時間を外に出たとしても体内で合成されるビタミンD量が少なく、不足した状態になってしまうため、数字の変更が行われている。
ちなみに海外では1日当たり15㎍としているところが多く、今後も改定時に数字の変更があると想定されている。
ビタミンDのおまけ話は興味深く
12月の札幌15時に5.5㎍のビタミンD量を産生するために必要な日照暴露時間として
2741分強という数字になるそうです。
1日よりも長い・・・・
このように住んでいる地域、気象状況などによっても大きく影響を受けるので、食品からの摂取や意識的に紫外線を浴びるなど行う必要があります。
食事摂取基準2020年版の大きな変更は以上になります。
その他の変更点
・コレステロールは体内での合成量の多さから、食事摂取基準から消えていましたが、脂質異常症の重症化予防のための数字が復活している。
・葉酸については妊娠の可能性がある、妊娠を希望する際には 400㎍を付加的に摂取することが望まれる(数字的にサプリメントの推奨とも言える)
・妊娠中期、妊娠後期については鉄の吸収率が高まっていることが分かったことから、鉄の摂取に関する数字を変更している。
こういったところになります。
給食現場などで大きな変化はありませんが、個人対応や栄養相談を行う場合にはそれなりに変更があるため、注意する必要があります。