食事と人権の話
障害者施設では度々人権についての問題が起こります。
意図的に人権侵害をしていたり、悪意があるというケースはほとんどみかけたことはないのですが、困ったことに、支援する側が好意的に行っていることが実は人権侵害的になってしまっているというのはチラホラ見かけたことがあります。
今回受けたのは他の施設からの「とある利用者さんを痩せさせたい」という相談からでした。
そこの職員と実際に話して、カロリー計算などをしていくと、実際に食べている量は少なくて、食事は課題がないと言える方でした。
こちらからすると「どうしてこれで太るのか分からない」
こういうケースはたまにあり、大体食事以外の部分に原因があります。
- 把握していない食事以外のカロリー摂取がある
- 代謝が低い
- 背後に病気や服薬がある
今回の件をコアメンバーで会議した所、これらの原因があることが分かりました。
今後は食事以外のカロリー摂取の把握、運動の実施、服薬は医師と相談を行なって、体重や血液検査の変化をモニタリングし、設定した期間で再招集して今後の方針決めを行うということを確認して話し合いは終わりました。
こういった書き方をすると、何も問題のないやり方に見えます。
ただ、本当に重要なのは
- 本人やご家族あるいは後継人が状態を理解し、行う方法に対して同意を得る事
- 課題となる点は様々にあるので、食事コントロール以外の方法も検討する事
こういった点がしっかり守られるかどうかです。
医師から言われた、あるいは血液検査の数値が悪かったというだけで、施設側が勝手に何かしらの対応を行ってしまう事があります。
施設としては本人の健康の為、良かれと思って行うわけですが、こういったことを実施する際にも本人の同意形成は重要です。
本人が求めていない過剰なサービスを押し売りしてしまう傾向がどうにも福祉施設にはあるように感じます。
特に知的障害のある方は自分で理解し、判断・決断することが難しいこともあり、新設の押し売りはそこそこあると思っています。
痩せるための食事制限については、病気でないにも関わらず、標準体重よりも体重が多いというだけで強引にダイエット計画を実施されていたりということもあります。
本人の為という思い込み
こういった行動を起こす職員の多くは真面目です。
健康の為だからこうあるべき
健康な方が本人にとって良いはず
施設に通っているのだから何かしてあげるべきではないか
こういった真面目な考え方をしています。
ただ、一般的に正しいと言われることを本人が望んでいるかどうかは別の話です。
僕もそれなりの年齢になってからは油断すると体重が増えすぎます。
スポーツをしているので頑張って痩せたりしますが、そういった趣味がなければ、少し太っているくらいでは生活に不便の無い時代にもなっていますし、実際に中年男性の40%は生活習慣病の予備軍です。
自分達で判断できる人たちですら卒先して行わないことを、正しさだけで押し付けても効果は得られません。
このように相手の為、本人の為、と言いながらも支援する自分の想いを果たすため、という行動になってしまうのがありがちな落とし穴です。
真面目な人ほど肩の力を抜く意識が必要かもしれません。
本当にあった怖い話
僕のいるところではないのですが
太ったので、
食事を減らした→でも体重増加が止まらない→また食事を減らした→まだ減らない→以下ループ
こういった恐ろしい手法が取られていたケースがあります。
食事をいくら減らしても痩せないなら、課題は他の部分になるはずですし
そんな勢いで減らされた食事の量はどれほど少なくなっているか・・・・
それぞれの器にごく少量しか盛り付けられていない食事場面を事情を知らない人が見ればそれは虐待に見えるでしょう。
そして、第三者から見て虐待に見えるもの、それは虐待に他ならないものです。
もしも、このケースで栄養失調の様な症状が出たら施設はどのように対応するのだろうかと、他人の施設ながら思ったことがあります。
栄養士のいる施設なのでどうにかするのだろうと信じていますが・・・・
防止方法
こういった事態は数字だけを追いかけることで起こります。
体重は?
カロリーは?
そういった数字の並びだけ見て、
体重は標準に近づけなくては、そのためにはカロリーを減らさなくては・・・
単純な数字合わせを始めると相手が人間であることを忘れたかのようなゲームが始まってしまいます。
これが本当にゲームなら数字をいじれば結果が伴うのでしょうが、現実はそううまくいきません。
太るのには理由があるし、痩せるのにも理由があるので、それを見つけて、しっかりと対応することが大事です。
太ったから食べすぎ、これは確かに多くのケースで事実ですが、そうではないこともそれなりにあるわけで、きちんと状況を分析することで本人を置き去りにしない支援を行うことができると思います。