病院の食事が美味しくない理由
入院したことのある方なら、病院で提供される食事の味気無さについては良くご存じだと思います。
僕も実際とある大学病院で調理にいたるまで行ったことがありますし、同僚から聞く話にも色々興味深いものがありますので、ここでは病院の食事についての実情と背景についてお伝えしたいと思います。
病院で提供する食事の目的
主に治療食と言われる食事が強く当てはまります。
外科の方は食事についてはそんなに気を使わなくても良いケースが多いので、今回の話にはあまり当てはまらないと考えてください。
では、早速美味しくないと評判の病院食の目的を書いていきます
病院食の目的1:体の調子を整える
薬や治療の効果の出やすい体の環境を整えることが大目標になります。
せっかく血圧を落ち着かせる薬を投与しているのに、大量の塩分を含む食事を摂取していたら、意味が無くなってしまいます。
それぞれの状態にあった食事を提供することで、薬や治療法の効果を最大限に発揮できる状態を整えたり、効果を打ち消すことの無いように配慮された食事が出されます。
病院食の目的2:状態にあった食事の提供
手術後は体が弱っていたり、消化管に負担をかけないために三分粥や五分粥、おかずも消化しやすい物という形で提供されることが多いです。
このように、現状の体調に合わせた食事提供を行う事で、落ちた体力などを回復させることも目的となります。
病院での食事においしさは不要?
上記のような目標を達成することが最優先と考えられていたので、病院食では美味しさは二の次という風習が残っています。
僕が働いていた病院でも、治療食については、規定量以上の調味料や食材は使用不可(きちんと計算、計測しているので)
このため、味見をしてはいけないと言われていました。
味見をして物足りないと感じても、そこに調味料を加える事などはできないためです。
治療食の種類によっては水すら足せません。
目的である体の調子を整える事が重要であるため、そちらの優先度が非常に高く、味が二の次になる難しさが病院の食事には出てきます。
病院の普通食も美味しくない理由は?
治療食については上記の理由で美味しさよりも優先するべきものがあるということは分かっていただけたかと思います。
では、調味料の変更などが可能な普通食(主に外科病棟)の食事の評判もイマイチなのはどうしてでしょうか?
理由は主に2つ
普通食の美味しくない理由1:材料は他とあまり変わらない
仕入、作業効率の都合上、どうしても治療食と全く違うものの提供は難しいです。
そして、同じ時間に食事をする人達で一方がステーキで、もう一方が煮物だと不公平感も拭えません(これはあまりにも大袈裟な例ですが)
こういった点から、ある程度共通の材料を使いつつ、途中まで調理工程も同じラインで行えることが望ましいので、「治療食と劇的に違う!」ということは困難になっています。
普通食の美味しくない理由2:居心地を良くする必要性が無い
病院は基本的に長期入院する人の方が少なく長くても1ヶ月以内に大体の方が入れ替わっていきます。
個人的にその分、数少ない常連の方に愛着を持ってしまいましたが。
とある病院栄養士の方の言葉を借りると、「退院できる人は病院にいるべきじゃないので、あまり居心地を良くしてしまい、本当に利用の必要な人のベッドが空かないことの方が問題になる、だから病院のごはんなんて少しまずいくらいで丁度良いんだよ」ということです。
飲み会の席でもあったので少し言葉は乱暴ですが、言わんとするところは何となく分かっていただけるのではないかと思います。
病院に入院する人の多くが入院したくてしているわけではありません。
だから、せめて居心地良くしたいという想いがある反面、それで居ついてしまうと、本来の病院としての目的が達成できなくなってしまうという二律背反的な悩みが出てくるわけです。
そうは言っても病院でも美味しいものを作りたい
僕が最終的に病院を辞めてしまった理由はいくつかありますが、そのうち「自分の納得のいくものを作りたい」あるいは「納得できないもののを提供し続けることに耐えられない」という部分があったことも事実です。
上記のような必要性も理解していはいます。
ただ、それが僕の性格にあっていなかったという感じです。
今思えば、若い頃の安い自尊心で突っ走ってしまったと思う反面、性格的に合わないのであれば合う人がやるべきなのだろうとも思います。
栄養士はその仕事の表面だけでなく、こういった事情も加味して、自分に合った職場探しをすることも大切だと学んだ一件でもあります。
決して上司と馬が合わなかったというわけではありません。
そんなのはどこに行ってもある話です(笑)
病院の食事が美味しくない理由 まとめ
病院の食事は治療こそが最優先されます。
その治療の為の体内環境を整えることくらいしか栄養士に手伝えることはありません。
そこに薬や治療が入って、状態を良くしていく。
医療はこういった専門職がそれぞれの分野で必要なことを積み重ねるという方法のチームワークを取っています。
方法は病院によっても様々ですが。
美味しさも大切ですが、それによって栄養士の専門性を失わないようにバランスを取りながら、病院の食事が改善されていくと良いと思います。
でも、病院の食事に関しては不満は出ても、ニーズはそんなに高くないんだろうという現実も感じますけどね。