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障害者の体重増加について
僕のいる法人は障害者施設と言われるものですが、利用されている方が400人程度います。
その中で健康面での課題として、60%くらいの方が肥満状態であることが挙げられます。
18歳までは養護学校などに通い、その後在宅での生活が難しい方などが通ったり、入所したりしますが、どうしてこういった施設で肥満が問題になるのか、福祉施設において健康というものが軽視されがちな点であることなど交えて書いていきます。
どうして肥満の方が多いのか
では、どうして障害者施設に通う方に肥満が多いのか、経験上分かったことや、ご家族からの聞き取りで分かっている部分について抜き出してみます。
肥満の多い理由1:運動量の低下
特に体には障害のない方の場合、学校生活では体育の授業などを始めとして運動を行う事が週に何度か習慣的に行われます。
ところが施設に入ってしまうと作業をしてお金をもらったり、日中の活動で散歩をすることくらいはあるものの、圧倒的に運動量が低下します。
この現象は実は障害者に限ったものではありません。
学生時代は痩せていたのに、社会人になって食べる量も変わらないのに太ってしまう人は少なくありません。
これは学生時代と比較すると、上記の理由から運動量が減っているので、本来は食事の摂取量も減るべきなのですが、習慣になった食事量を減らすということは特に若い世代では食欲も強いことから困難であり、肥満の原因となってしまうことが原因です。
肥満の多い理由2:食事量が変わらない
すでに理由1で書きましたが、食事量は成長期であり、運動量の多い学生時代から少し減らす必要があります。
成長期には体を大きくするにもエネルギーが必要で、活動量も多く、多少の食べ過ぎは問題になりませんが、社会に出て、成長が止まり・運動量が少なくなってしまえば、食事量も本来はそれに見合った量に減らすべきです。
ところが、胃袋の大きさは急に変わったりはしないので、食事量だけは変わらないという方が多いので、障害の有無に関わらず18歳以上というのはひとつのターニングポイントとなります。
そしてそれ以降も体の代謝は落ちて行く一方なので、緩やかに食事量も調整する感覚が必要になる人が多いです。
※もちろん運動習慣を継続できている場合はこの限りではありません。
肥満の多い理由3:食べている時は大人しい
これはご家族からの聞き取りで良く耳にします。
調子が悪くなると大きな声を出したり、物や人を叩いてしまう方もいます。
そんな時には食べ物を提供することで、とりあえず食べている間は落ち着く、あるいは満腹であれば静かになるという経験から、困ったら食べ物で事態の収拾を図る、ということです。
これは改善の難しいパターンです。
痩せる為に間食を止めようにも、家族だって、できれば食べ物で釣る以外の方法を行いたかったハズで、止むを得ず現在の方法に至っているからです。
こういった家族に無理を言ってしまうと、家庭生活が崩れてしまい、健康状以前の問題が拡大してしまうことも多くあります。
その場合には、食べてもらって良いものは何か、他のところで制限できないかというところに舵を切り替えています。
家族に負担が多き過ぎる方法は長続きしない為です。
肥満の多い理由4:食欲のコントロールが難しい
健常者と言われる人でも、肥満傾向の人は、お腹が空くとついつい食べ過ぎてしまったり、空腹でなくても、スナック菓子が目に入ると食べてしまうという事があります。
そして、障害のある方は僕達以上に、こういった部分のコントロールが難しい面を持っています。
施設の外出活動でバイキングに行くと、食べ過ぎて吐いてしまったという方も今までに両手の指で足りないくらい耳にしてきました。
自分でコントロールできない部分については、食事量など周囲が意識をする必要もあるということになります。
肥満の多い理由5:家族の意向
知的に重度の障害のある方については、楽しみが少ないという傾向があります。
オシャレな服を着たいという願望がなく、スタイルの良い体に憧れる事もない。
そのため、ご家族から、「食べることは数少ない楽しみだから制限なく食べさせたい」という意向を聞くこともあります。
これについては個人的に「はいそうですか」と聞くことはありません。
栄養士だからということではありません。
この理由としては
それで生活習慣病を酷くして入院などに至った場合には、食べ物に厳しい制限が付くだけに留まらず、肥満になればただでさえ体が動かし辛くなり、更に生活の幅が入院生活では大幅に制限されます。
目先の満足感のために将来的にかなり厳しい我慢を強いられることが目に見えてているためです。。
特に病院は知的に障害を持っている人の受け入れに慣れていません。
多くの場合家族も一緒に泊まり込むなどの対応を求められます。
こういった際に起こる本人・家族への極大のストレスを考慮すると、その前に小さなハードルをなんとか超えてもらって、最悪の事態が起こらないようにしていく必要がある、というのが僕の考え方です。
障害者福祉施設では健康の価値が低く見られている
個人的に障害者施設では、まだまだ利用者の健康についての考え方がハッキリしていない点が課題だと感じています。
てんかん発作を抱えている方などは、多くの場合服薬もあり、それを小さい頃から飲み続けているので、肝臓などの検査結果は悪いことが日常化してしまいます。
こういった、検査結果の悪さも「いつものこと」と日常風景となって風化してしまいます。
更に、健康であることのメリットを得にくいということもあります。
健康だから何かをしよう、というモチベーションにはつながらない、知的に重度な障害を持つ方だと、結婚や異性との関わりについてもイメージすることも難しく、そうなると外見的な点を改善することにメリットが見い出せません。
そもそも
本人が自身の体調不良を訴える事ができなかったり、調子が悪くても我慢してなんとかなってしまったり・・・
第三者が気づかなければ、体の状態が酷くなるまで表面化しないこともあります。
健康であるという事の価値が低いというのが現状です。
ここは少し書いていると感情が溢れ出してしまい、上手くまとめることができませんでした、いつか書き直したい・・・
障害者が健康であるという事の意味
肥満などを長期に渡り放置した結果として
・糖尿病で足を切断した
・糖尿病で目が見えなくなった
・膝を悪くして車いすになった
・透析を行うため週に何回も通院して数時間拘束される生活になった
こういった場合、本人のストレスはどうでしょうか?
感情のコントロールが苦手な方はそういった生活に慣れるのにどれだけの期間が必要でしょうか?
今までできたことができなくなる、自分の体が思うように動かなくなるというストレスはきっと僕達がそうなった場合を軽く凌駕するのは想像に難しくありません。
肥満は言い換えれば体重が増えることです。
介助者への負担も大きくなっていきます。
関わる家族は時間の経過と共に年齢を重ねていきますが、本人の体重は増える一方・・・
こういった行きつく先をきちんとイメージして、少しでも福祉施設において健康である事に興味を示す職員、ご家族を増やすことも現場栄養士の仕事の一つと言えると思います。