栄養ケアマネジメントの運用
うちの施設では栄養ケアマネジメントを実施しています。
これは栄養状態の維持・改善についての計画を立てると共に、それが好ましい状態で進行しているかを継続的にスクリーニング・アセスメントしていくものです。
入所という形態の施設なので、1日3食こちらで提供していますが、なぜそのような食事をしっかりと管理している施設でも、こういった作業が必要になるのかという基本的な部分から話を進めていきたいと思います。
栄養ケアのはじまりは高齢施設
栄養ケアの必要性が訴えられたのは高齢者施設において、
栄養士や看護師がいる施設でありながら、栄養失調の状態に陥る方が多いとは如何なものか?
と言われたのがスタートだと記憶しています。
栄養士がいる施設で栄養失調とは何事か!?
これについて、言っていることは良く分かりますが、自分が年齢を重ねるにつき食事の量を食べ切れない・・重たい物は厳しくなるし・・・という方々の声が理解できるようになってきました。
つまりは、きちんと栄養管理されている食事を提供しているだけでは、健康・栄養状態は守られないということです。
そのため、栄養ケアマネジメントの内容では、日々の食事摂取量の把握が含まれています。
そして、食事がきちんと摂取できないのであれば、それに対して栄養士や看護師だけでなく、支援のスタッフや医師など、多職種で原因と対応を検討して、きちんと対象となる方の栄養摂取ができる環境を作りましょうというのが主な方向性です。
口から摂取できるが課題もある場合
口から食事を摂取できるものの、好き嫌いが多かったり、噛む・飲み込むといった能力の衰えや欠如から、安全に食事をすることが困難になったケースなど、口から食べられるものの、それが安全では無かったり、栄養の偏りにつながるケースに対しては。
好き嫌いがあれば、代替の食材を利用したり、栄養補助食品などを取り入れたりすることで、きちんと栄養素の摂取ができるようにします。
本当は何でも食べて欲しいところですが、何十年の習慣を変える事は容易ではないので、取り組みとしては素晴らしいものでありつつも、嫌いなものを食べるというよりは、他の手段を講じることが多いです、
無理強いは職員だけでなく、本人の負担も大きくなってしまうこともありますので。
食べるための機能の低下などでは、食事形態を考慮します。
小さめに切る、柔らかく煮たりするといった、ちょっとした工夫に始まり。
噛めなければムース状にしたり、呑み込みが悪ければ少しとろみをつけたり、ゼリー状にしたり。
安全性を優先しながらも、食欲を少しでも減退させないように、見た目の工夫なども行って対応します。
口からの摂取が難しい場合
こうなってしまうと、栄養士の手を少し離れる感じはありますが、静脈栄養や胃ろうという経腸栄養が主なものになって来ます。
ここまでくると、生きていくための栄養摂取はできますが、体重を健康的な見た目に近づけること等は困難になります。
そのため、痩せている方がほとんどですね。
充分なカロリーを摂取することが、時間がかかったりすることから、本人への負担など考えて難しいこともあります。
そして、静脈栄養や胃ろうになった方は、それほど体を動かす機会がないこともあるので、必要な分だけを獲得する。 というイメージになっています。
高齢者施設特有の悩み
食事形態を変えると、見た目が悪くなるので、食事の「楽しみ」の部分が大きく削がれてしまうので、食事をする意欲が下がって、更に食事摂取量が下がってしまう。
そして消化吸収の機能も落ちてくるので、たんぱく質や脂質といった、体を構成する栄養について「重たい」と感じてしまい、どうしても必要な量の摂取が難しくなる。
食習慣や嗜好はうん十年の積み重なったものなので、変更自体が困難
障害者施設での取り組み
実は高齢施設からスタートした栄養ケアマネジメントは、現在障害者入所施設でも行うべきとされています。
ただ、僕は実施していますが、うちの市内の同様の施設はほとんど取り組めていないと、監査に来た市の職員の方が行っていました。
理由は単純に、手間と時間のかかる仕事だからということでしたが・・・
正直うちの施設は立ち上げ当初から、栄養ケアマネジメントは行う前提で話を進めていたので、後から追加された仕事ではなく、その点では気分的な負担は少ないのかもしれませんが、一方で、栄養士の仕事への意欲という部分に疑問が残るのも正直な感想です。
障害者施設でも栄養ケアマネジメントの加算がスタートすることが決まった後に、県レベルの栄養士研修会があったのですが、主催者への質問が、
「いつから始まるのか」
「管理栄養士でなくても移行期間中は加算が出るという話だが、その移行期間はいつまでなのか」
という、内容そっちのけのものばかりで、驚きました。
こちらとしては
「今日研修会に出たのだから、明日から取り組む準備すれば良いのに」
「管理栄養士がなくてもいつまでできるかじゃなくて、次の国家試験でちゃんと取ろうよ・・」
と、心の中でつぶやいていたのを思い出します。
この分野の栄養士はちょっと遅れているのかもしれません。
障害者施設特有の悩み
噛む・飲み込む部分の機能について、衰えるというよりも、成長の過程で身につけてこなかった、そのため、今後もそれを獲得することは困難ということが多く、若くして必要な栄養を摂取するために、食事以外の様々な取り組みが必要になるケースが多いです。
そして若いので、必要になるカロリーや栄養素量も多いので、通常の3食だけでは、理論上大丈夫な数値になっていても、痩せてしまう事もあります。
例え静脈栄養や胃ろうであっても、運動量もあり、基礎代謝が多いこともあり、医師と相談しながら胃ろうのカロリーを増やしたケースもあります。
栄養ケアマネジメントについて最期に
栄養ケアマネジメントは多職種間での連携やカンファレンスの開催も必要で、書類の作成なども簡単ではありません
ですが!
多職種間の連携が上手く取れ、対象となる方の状態が上向いた時の達成感は、何とも言えないものです。
施設内での連携の賜物なので、施設の雰囲気も良くなります。
なんとか上手く取り組んで、施設内で起こる栄養不足を起因とした疾病などが少なくなる事を願います。
ここは栄養士の企業努力のしどころとも思いますので。