骨なし魚の功罪

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切り身

骨なし魚の功罪【メリット・デメリット】

高齢者施設や障害者施設では魚の切り身を提供する際に、予め骨を抜いた魚を納品して調理する傾向が強くなっています。

今回は僕が個人的に思う骨なし魚を使用するメリットとデメリットについて書いていきます。

 

骨なし魚を使用するメリット

魚を食べる時に骨は取り除きながら食べるものですが、これが最初から取り除かれているメリットには以下のようなものがあります。

 

手間がない

魚は骨があるから食べるのが面倒だという人も気軽に食べることができるため、魚への拒否感が軽減できます。

 

小骨をつかえる心配がない

ごく稀に取り除き損ねた小骨があることもありますが、基本的には小骨すらないので、喉に詰まって取れないという不快感や周囲の手間暇などを心配する必要がありません。

特に高齢の方は細かいものが見えにくくなる傾向があるので、小骨がないつもりで食べて不意に詰まらせてしまうリスクがあるため、重宝されます。

 

基本的にメリットは食べる際の手間の無さ、小骨を喉に詰まらせるなどがないという安全性の高さになります。

 

骨なし魚のデメリット

メリットが大きいので「デメリットなんてあるの?」という気もしますが、心の狭い僕から見るとなんとも見過ごせない部分が一つあります。

 

施設以外で魚料理を食べなくなる

施設の給食では骨を取る手間のない魚が出てくる。

すると、ある場面で骨のある魚を前にした時に「骨を取り除くことが面倒」ということになってしまします。

 

これは骨を取り除くだけの能力が残存している人でも起こります。

実際僕も家で魚の煮つけを食べる際に

「骨なしだと丸かじりできるのに」なんてことをついつい思ってしまいます。

 

骨を取り除く必要が無くなれば、骨を器用に取り除くだけの能力が衰えていきます。

料理によって小骨くらいは噛んで食べることができるものありますが、そういったことに取り組む機会を失います。

 

便利になることで不要になった能力は衰えていきます。

手先を細やかに動かす機会が他で充分に確保できているのであれば良いですが、積極的にこういった場面を取り上げてしまうような使い方がされているように思います。

そのため、僕は便利な骨なし魚でも諸手を挙げて「積極的に使うべき」とは言いたくなかったりします。

 

骨なし魚と時代の流れ

少し前までは、骨なし魚を使用したいという話をしたのならば

「骨の無い魚って何?」「加工はどうしてるの?」「安全なの?」

こういった不安の声の方が強くありました。

 

実際には、魚を切り分けて手作業で骨を抜き(熟練の技術だそうです)、結着剤で再度つなぎ合わせたものが骨なし魚です。

その工程から、「不自然」とも言え、昔の価値観ならこんなに積極的にし余殃されることも無かったと思います。

 

それがいつの頃からか

  • 食べやすい
  • 食事介助が楽ちん
  • 安全性が高い

こういった合理性を追いかける流れにすっかり飲み込まれました。

 

それが良いとか悪いと判断するつもりはありませんが。

個人的に骨なしの魚を提供する能力的な問題の無い人にまで使用を広げてしまう現状にちょっと不安を持っています。

 

もちろん食事をする能力に課題があれば積極的に利用するべきだとも考えています。

 

「誰に」「何のために」それが提供されているのか、ここがぼやけてしまうことについてだけ懸念を抱いています。

過剰でも、不足でもなく、適切なサービスの提供が最も望まれるのではないでしょうか。

 

おまけの話

偉そうなことを書きましたが、僕の施設では骨なし魚を使用しています。

 

これは僕の前々任者くらいの頃には取り組んでいるので、ここから能力のある人には骨のある魚を・・・とした場合「ここで出される魚には骨がない」という前提で食べている人への安全性が確保できないためです。(障害者施設ならではの変化の難しさとも言えます)

 

外見上見分けがつかないというメリットが元に戻す上での壁になってしまっています。

 

このように一度、食事の形態を落としてしまうと、上げることは簡単ではありません。

合理性ばかりを追いかけ、安全性という大義名分を掲げて、食べる人の未来をないがしろにすることは避けたいと思っています。